現在、矯正治療を行っている方や過去に矯正治療を経験されている方で、ワイヤー矯正治療をされている方はブラケットが外れた経験はありますか?ブラケットはさまざまな状況で脱離してしまう可能性があります。
今回は矯正歯科治療に伴い、さまざまなトラブルやリスクがありますが、ワイヤー矯正治療で起こるブラケットの脱離の原因についてお話していきます。
ブラケットとは、ワイヤー矯正治療で使われる歯の表面に歯科用の接着剤で付ける装置です。
そして、ブラケットの真ん中の溝があり、ワイヤーを入れて歯に矯正力を加えて歯を動かしていく装置です。
ブラケットが外れる原因は、「医院側」と「患者様側」のどちらにもあります。
「医院側」の原因
①ブラケットを付ける際に、十分に防湿できていない。
ブラケットは口腔内で装着するため、唾液があると接着力が弱ってしまい、ブラケットが外れやすくなるため、十分に防湿する必要があります。
②歯の表面の酸処理が不十分
酸処理とは、歯の表面にエッチング(リン酸処理剤)を塗布し、エナメル質の表面を脱灰(歯の表面を粗造にすること)し、装置を付けるための接着剤が付きやすいようにします。
この酸処理が不十分であると、接着力が弱くなり、ブラケットや他の矯正装置が外れやすくなります。
③接着剤と歯の相性が悪い
使用しているプライマーや接着用ボンドが歯と相性が悪く、ブラケットや他の矯正装置が外れやすくなることもあります。その場合は、種類を直ちに変えることが改善につながることもあります。
プライマーを塗布した後にブラケットを装着するまでの時間が長ければ長いほどプライマーが硬化し、接着力も弱まり、ブラケットが外れやすくなることがあります。
「患者様側」の原因
①TCH・歯ぎしり・食いしばり
皆さんは、何もしていない状態でお口を閉じている時に、上下の歯が接触していませんか?
TCHとは、”Tooth Contacting Habit”の頭文字をとったものです。
意味は、“上下の歯を無意識にくっつけている癖”(歯列接触癖)のことをいいます。
TCHや歯ぎしり、食いしばりは、無意識のうちに起きてしまうことが多いです。
平常の安静時は、上下の歯は2~3㎜ほど空いているのが正常な状態であり、上下の歯が接触するのは、食事の時、会話の時だけです。TCHによって、常に上下の歯が接触している状態が長時間続くと、歯に圧力がかかり、歯を支える歯槽骨にも負担がかかってしまいます。そして、歯や歯槽骨だけでなく全身にも影響を及ぼしてしまいます。
また、歯ぎしりや食いしばりは歯や歯槽骨に伝わる力が大きく、それ以外にお口の周りの筋肉や顎の関節に大きな負担がかかってしまうこともあります。
TCHや歯ぎしり、食いしばりがあると、口腔内の状態は歯が摩耗し、しみるようになったり(知覚過敏)、歯にひび割れが進み、歯が壊れてしまうこと(歯の破折)もあります。また、歯肉や歯周組織に炎症が起こり歯周病を進行させたり、顎の関節や筋肉に力が加わることで顎関節症や咬筋の筋肉痛などが起こる可能性があります。そして、ブラケットや他の矯正装置にも影響し、外れてしまうことがあります。ブラケットが外れると、矯正力が加わらなくなり、矯正治療が長引いてしまいます。
口腔内以外でも、頭痛や肩こり、耳鳴り、めまいなどを引き起こす可能性があります。
では、なぜTCHや食いしばり、歯ぎしりといった癖が起きてしまうのでしょうか?
その原因の一つとして、「ストレス」によって起こりやすいです。そのほかに、何かに集中していたり、緊張状態が続く場面でも起こりやすく、かみ合わせが悪い、運転や仕事、運動、スマホやパソコンなどの操作する時の下向く姿勢や前傾姿勢などでもTCHが引き起こりやすいです。
TCHの見分け方は?
1.舌圧痕(舌の周りに歯型が付いている)
歯ぎしりや食いしばりによって歯列に舌が圧迫され、舌がボコボコとした形に変形にした状態をいいます。舌癖によって、舌の周りに歯型が付くこともあります。
2.頬粘膜圧痕
頬粘膜圧痕も舌圧痕と同様に、食いしばりや歯ぎしりによって、頬粘膜や舌が歯列に圧迫されることでできます。頬粘膜に白い筋のような線ができます。
3.骨隆起
骨隆起は、「口蓋隆起」「歯槽隆起」「下顎隆起」があります。
骨隆起は、食いしばりや歯ぎしり、強いかみ合わせにより、顎の骨に力が加わり刺激されることによって骨がコブのように盛り上がってしまいます。口蓋隆起は、上あごの真ん中に骨の膨らみができます。歯槽隆起は、歯茎に沿って骨の膨らみができます。下顎隆起は、下あごの舌側(内側)に骨の膨らみができます。
TCHや歯ぎしり、食いしばりの改善方法は?
習慣を止める方法は、唇を閉じた状態で歯を離す感覚を覚えることです。「唇を閉じて、上下の歯を離し、力を抜く」ということを意識してみてください。そのほかに、日常生活で目に入る場所(冷蔵庫、洗面台、トイレなど)に貼り紙をしておくこともいいかもしれません。また、ストレスも原因の一つのため、ストレスを解消することや、歯並びを治すことも改善につながる可能性があります。
このような方法で歯の接触癖を無くすことで、ブラケットなどの矯正装置が外れる可能性が少なくなり、知覚過敏が減少し、歯の寿命も延び、また顎の関節とお口の周りの筋肉の緊張やこわばりから解放されるということが報告されています。
②食べ物
ブラケットが外れる原因として、食事中に外れることが多いです。硬い食べ物やギシギシ噛むようなもの、粘着性のある食べ物などを食べると装置が外れやすいです。
- ・硬い食べ物
あめ、おかき、氷、ラムネ、トウモロコシ、フランスパン、ナッツ類 等 - ・ギシギシ噛むもの
- カルパス、ビーフジャーキー、スルメ 等
- ・粘着性のある食べ物
キャラメル、チューイングガム、おもち 等
これらの食べ物は、装置が外れやすくなるもののため、うどんや豆腐のようなやわらかい食べ物やお肉でもやわらかいお肉やつくねやハンバーグなどのようにミンチのお肉を使った料理や、硬い根野菜を一口サイズに切るなどの工夫をして頂ければ装置が外れる可能性が低くなります。
③歯磨き
歯磨きでも、磨き方によってはブラケットや装置が外れることもあります。
また、歯の表面にプラークや汚れが付着していたり、虫歯ができると、ブラケットの接着力も低下していきます。
汚れが溜まりやすい場所
- ・ブラケットや装置の周り
・歯と歯の間
・バンド周り
・歯と歯肉の境目
磨き方
- ・ブラケットやワイヤーの周りは、上からゴシゴシ磨かずに、歯ブラシの毛先を歯面に沿わすように斜めから歯ブラシを当て、小刻みに動かしながら磨きましょう。
- ・歯ブラシの毛先が届きにくく、汚れが溜まりやすい歯と歯の間などの場所は、歯間ブラシやワンタフトブラシを使用して1本1本丁寧に磨きましょう。
- ・磨くときに、力を入れすぎるとブラケットや装置が外れやすくなるため、やさしく磨いてください。
- ・白ワイヤーの方は、研磨剤入りの歯磨き粉やかたい毛の歯ブラシで磨くと、コーティングが傷つきやすく、はがれやすくなる可能性があります。なので、研磨剤の入っていない歯磨き粉と毛のやわらかい歯ブラシを使用することをおすすめします。
④補綴物(銀歯やセラミックなどの人工歯)
銀歯やセラミックなどの補綴物は治療していない歯(天然歯)と比べて、ブラケットや矯正装置が外れやすくなります。歯科用接着剤は歯のエナメル質に接着しやすくできているため、金属やセラミックといった人工歯は歯科用接着剤との相性が悪く、ブラケットや矯正装置が外れる可能性があります。
⑤咬み合わせが深い(過蓋咬合)
歯並びによってもブラケットや矯正装置が外れやすい咬み合わせがあります。過蓋咬合という不正咬合を聞いたことはありますか?咬み合わせが深く、下の歯が上の歯に大きく隠れている状態のことをいいます。
咬み合わせが深いとブラケットや矯正装置が上の歯に接触し、干渉しやすく、ブラケットが摩耗したり、外れやすくなります。
⑥矯正装置を指や舌で触る
ブラケットや矯正装置をつい気になって触ってしまう方がいたり、無意識に癖となって触ってしまっている方もいます。指や舌で装置を触ってしまうとブラケットが外れてしまったり、ワイヤーが変形してしまう可能性があります。装置を触るのが癖になってしまっている方は、触らないよう注意していただき、意識するように心がけてください。
⑦スポーツなどでの外傷
転倒して顔面を打ってしまったり、スポーツでボールが顔面に当たった衝撃でブラケットが外れることがあります。レスリングや柔道、ラグビーなどの激しいスポーツや吹奏楽で楽器を吹くものは、特に装置が外れる可能性があるので注意してください。
これらの原因によって、ブラケットや矯正装置が外れてしまう可能性があります。
外れた場合は、再利用する場合がありますので、外れた装置は持参していただくようお願いします。
そして、外れたら再装着いたしますので、早急に医院へご連絡をお願いいたします。