コラム

2024.06.14

歯の発育時期と形成異常

歯が成長している子どもの写真

○歯の発育段階

歯の発生は、胎生6週頃に上顎突起と下顎突起の口腔粘膜上皮が増殖して肥厚し、間葉組織中に陥入して歯堤をつくることから始まります。この歯堤が成長して歯胚を形成することになるが、歯胚の形成状態により、歯の発育段階は次のように分類されます。

➀成長期

1)開始期

胎生6~8週の間に口腔粘膜上皮の陥入、増殖、肥厚が起こり、その直下に未分化な間葉細胞が集まってきます。これにより、歯堤の形成が始まります。この歯堤が増殖して、上下顎にそれぞれ10個の歯胚を形成します。蕾状期(らいじょうき)と呼びます。

2)増殖期

細胞の増殖によりエナメル器が発生する時期のことをいいます。特に辺縁部の増殖が著しく、帽子のような形に変わるため、帽状期(ぼうじょうき)とも呼ぶこともあります。帽状期の凸部分を外エナメル上皮、凹状部分を内エナメル上皮といいます。

3)組織分化期

細胞が分化する時期のことをいいます。内エナメル上皮はエナメル芽細胞になります。内エナメル上皮を取り巻いている間葉性の細胞が歯乳頭をつくり象牙芽細胞になります。

4)形態分化期

将来のエナメル質と象牙質の境界に沿って細胞が配列し、歯冠と歯根の大きさや輪郭を決定する時期です。組織分化期と併せて鐘状期(しょうじょうき)と呼びます。

5)添加期

エナメル質基質および象牙質基質が規律的に添加していく時期です。

6)石灰化期

エナメル質基質や象牙質基質が石灰化する時期です。

歯の構造図イメージ

 

➁萌出期

口腔内に歯が移動する時期です。顎骨内で歯冠が完成すると継続的に咬合面方面へ移動していきます。顎骨内での移動(骨内萌出)と、口腔内に出てから機能を営む咬合位に達するまでの移動(口腔内萌出)とがあります。

○歯の発育時期と形成異常

歯胚の発育は、エナメル質をつくるエナメル芽細胞と象牙質をつくる象牙芽細胞が隣接し、相互に影響しあいながら行われます。したがって、この時期の相互作用は異常が生じると、歯の発育や形成が障害されることになります。

1)歯数の異常

歯の開始期や増殖期の異常によって起こります。

➀歯数の不足

歯が先天的に欠如している場合を歯症といいます。全部の歯が欠如している場合を完全無歯症といいます。1本あるいは数本が欠如している場合を部分的無歯症といいます。これらは、歯胚の形成あるいは増殖が行われなかったために、歯として発生せず先天欠如となったものです。乳歯の先天欠如はその後継永久歯の先天欠如をもたらす場合もあります。

乳歯および永久歯の全歯あるいは多数歯が欠如した場合は、全身疾患との関連が強く、外胚葉異形成症や色素失調症などにみられます。少数歯の欠如の出現率は切歯群や臼歯群ともに後方歯に高い(中切歯よりも側切歯に多く、第一小臼歯よりも第二小臼歯に多い)ので、系統発生学退化現象であるとされています。先天欠如は乳歯よりも永久歯に多く発生します。

系統発生学退化現象:生物のある器官・組織が、進化の途上で次第に衰退・縮小する現象。

➁歯数の過剰

正規の数を超えて過剰に形成された歯を過剰歯といいます。過剰歯は正常の歯数より歯胚が多く形成された場合に生じます。形や大きさは正常歯に似たものから結節状、円錐状などさまざまあります。乳歯の過剰歯はほとんどみられません。好発部位は乳歯列では上顎前歯部、永久歯列では上顎正中部(正中歯)と下顎の臼歯部に多いです。

2)構造の異常

歯の組織分化期、添加期、石灰化期の異常で起こります。組織分化期のエナメル芽細胞の障害はエナメル形成不全を生じます。また、象牙芽細胞の障害は象牙質形成不全を生じます。いずれも遺伝性疾患です。さらに、添加期の障害がエナメル質に起こすとエナメル質減形成を、石灰化期の障害はエナメル質低石灰化を引き起こす。原因はフッ化物の過剰摂取、熱性疾患、外傷、放射線、ビタミン欠乏症、内分泌障害、周産期性障害などです。全身的原因の場合には、その障害が起こっていた時期に形成されていた歯のすべてに減形成が生じ、線状エナメル質減形成を呈します。

局所的原因の場合として、乳歯の根尖性歯周組織炎により、後継永久歯歯胚が影響を受けることがあります。そのときの歯胚の発育程度と加わった障害の強さによって、形成障害(エナメル質の白濁などの石灰化不全も含む)を受け、後継永久歯の歯冠部に形成不全が生じます。これを、ターナー歯といいます。また、乳歯の外傷により後継永久歯の歯冠部エナメル質に形成不全が生じることがあります。

3)形態の異常

形態分化期に障害があると、歯の大きさや外形の異常となって現れてきます。

  • 矮小歯:歯冠部の大きさが平均値よりも著しく小さい歯のことをいい、円錐状(円錐歯)や円柱状(円柱歯)の形態などがあり、上顎の側切歯(前から2番目)にしばしばみられます。
  • 巨大歯:著しく大きい歯。
  • 癒合歯:隣り合う歯胚が発育途中で融合して象牙質を含めて一体化したものです。下顎の乳切歯でみられることがあります。
  • 切歯結節:上顎切歯の裏側の基底結節(きていけっせつ)が大きく発達したものである。
  • 中央結節:舌側や咬合面に生じる結節のことで、切歯では切歯結節、臼歯の咬合面では咬合面中央結節といいます。下顎の第二小臼歯(前から5番目)に多く出現します。
  • 介在結節:上顎の第一小臼歯(前から4番目)および上顎の第一大臼歯(前から6番目)の近心辺縁隆線上(正中部から近い側で線状に隆起した部分)にみられる小結節のことをいいます。
  • 臼傍結節:上顎の第二大臼歯(前から7番目)・第三大臼歯(親知らず)の頬側面にみられる過剰結節のことをいいます。下顎の大臼歯の近心頬側面(頬に接する面)に出現する結節のことを   プロトスタイリッドといいます。
  • カラベリー結節:上顎第二乳臼歯、上顎第一大臼歯の近心口蓋側(口蓋に接する面)に出現する結節のことをいいます。
  • タウロドント歯:臼歯の歯頚部から歯根分岐部までの部分が異常に長くなり、長胴になったものを
    • タウロドント(長胴歯)といいます。
  • 棘突起(きょくとっき):上顎の前歯の裏側に1~3個の小突起があり、上顎の中切歯(前から1番目)、犬歯によくみられます。
  • シャベル切歯:上顎切歯(特に側切歯)にみられ、歯の裏側が深くくぼんでいるものをいいます。
  • 双生歯:正常な歯と過剰歯胚が癒合したもので、歯髄、象牙質を一部共有した歯をいいます。
  • 樋状根(といじょうこん):下顎の第二大臼歯(前から7番目)にしばしばみられ、近・遠心根の頬側が癒合したもので、頬側からみると単根だが、舌側からみると深い縦溝で二分されています。

4)色調の異常

歯胚の石灰化期に無機結晶と親和性のある物質が体液中にあると、歯質に取り込まれて歯の着色を生じることがあります。この着色歯(変色歯)の原因には、内因性と外因性があります。

1.歯質の着色

➀内因性の着色

重篤な新生児黄疸を経験した小児では、ビリルビンの沈着により乳歯が緑色または淡黄色を示すことがあります。青緑色歯は新生児メレナや胎児赤芽球症のときに現れます。ピンク・赤色歯は肝性ポルフィリン症という疾患が原因である。

➁外因性の着色

歯の形成期間中にテトラサイクリン系の抗菌薬の投与を受けると、黄色、灰白色、暗褐色歯に変色することがあります。

2.歯の表面の着色

萌出後に飲料(紅茶やコーヒーなど)に含まれる色素により、歯に着色がみられることがあります。

歯の裏が汚れているイメージ