唾液は、唾液腺という唾液を産生する組織で作られ、無色透明、あるいはやや白濁している粘性の体液であり、消化管で最初に分泌される消化液です。
成人の1日の総唾液分泌量は1~1.5Lで、pHは6.2~7.6である。分泌量には個人差、性差、年齢差、季節変動、服用薬剤などが関与し、さらに同一個人であっても体温、血圧、体液量(浸透圧)などの影響によって変化し、一定ではありません。
唾液腺には大きく2つに分かれており、大唾液腺と小唾液腺があります。
○唾液腺の種類
1.大唾液腺(大口腔腺)
大唾液腺は耳下腺(耳の前下方)、顎下腺(顎の下)、舌下腺(口の底)の3つに分けられ、これらは左右対称にあります。
唾液は耳下腺管や舌下腺管のように管のようなものがあり、そこを通ってそれぞれの開口部から口腔内に唾液が分泌されます。耳下腺から分泌される唾液は漿液性の唾液(サラサラの唾液)であり、舌下腺から分泌される唾液は粘液性の唾液(ネバネバの唾液)です。顎下腺から分泌される唾液は漿液性の唾液と粘液性の唾液が混合した唾液(混合唾液)になります。
2.小唾液腺(小口腔腺)
小さな唾液腺が粘膜下にあり、口唇腺・頬腺・口蓋腺・舌腺(前舌腺、エブネル腺、後舌腺)に区別されています。口唇腺・頬腺・前舌腺から分泌される唾液は混合唾液であり、口蓋腺と後舌腺は粘液性の唾液(ネバネバの唾液)、エブネル腺は漿液性の唾液(サラサラ唾液)が分泌されます。
○唾液の性状・成分と機能
1.唾液分泌量
唾液の分泌量は1日に約1~1.5Lであり、顎下腺から約65%と最も多く、耳下腺は約20%、舌下腺は約10%、小唾液腺は約5%といわれています。(個人差があります。)
唾液の分泌は安静時や睡眠時(安静時唾液)には少なく、食事時や会話時など(刺激時唾液)には多くなります。安静時唾液の分泌量は1分間に0.1mL~0.3mL必要とされ、唾液分泌量が通常の1/2以下になると、口腔乾燥が生じます。刺激時唾液には耳下腺唾液が多くなります。また、唾液の分泌は自律神経(交感神経と副交感神経)によって支配されます。両方の神経とも刺激されると唾液分泌が促進されますが、交感神経を刺激すると水分が少なくタンパクなどの高分子物質を多く含む唾液が多く分泌されます。副交感神経が刺激されると水分が多く電解質を含む唾液が分泌されます。スポーツや緊張時は交感神経が刺激されているため、水分が少ない唾液が分泌されることで口が乾いた状態になります。
日内変動も認められ、夜間の分泌量は低下します。また、水分を失いやすい夏季は冬季に比べて分泌量は少ないです。
2.唾液の性状
耳下腺は漿液性唾液(サラサラ)であり、舌下腺が粘液性唾液(ネバネバ)、顎下腺が混合唾液です。唾液には粘性があり、これはムチンが含まれているからです。ムチンは粘液細胞が産生しており、舌下腺、顎下腺、耳下腺の順に粘度の高い唾液が分泌されています。唾液は耳下腺、顎下腺、舌下腺の大唾液腺、および小唾液腺から分泌されます。これらが口腔内で混ざり合い、混合唾液になります。咬合時に分泌される刺激時唾液は、安静にしているときの安静時唾液よりも分泌量が多いです。
3.唾液の成分と機能
唾液は消化液として食物を消化するとともに、食塊の形成から嚥下までを助ける働きをしています。また、口腔粘膜や歯を保護して口腔の生理機能を維持する働きがあります。
①消化作用
耳下腺は消化酵素のアミラーゼを分泌します。アミラーゼは、デンプンやグリコーゲンを加水分解してデキストリンを経てマルトースまで消化します。エブネル腺はリパーゼを分泌しており、脂肪を消化します。
➁潤滑作用
ムチンは唾液に粘性を与え、食物を潤滑して食塊の形成を補助し、嚥下が円滑に行われるようにします。また、会話のときに舌や口唇の運動を円滑にします。
口腔粘膜の保護をし、咀嚼や発音をスムーズにします。
③保護作用
唾液に含まれるムチンなどのタンパク質は、粘膜や歯に付着する性質があります。特に歯の表面では被膜(獲得被膜)を形成し、粘膜や歯を乾燥から防いでいます。また、再石灰化作用にも役立っています。
④緩衝作用
唾液中の重炭酸イオン(HCO₃⁻)の働きによって、酸またはアルカリを中和する働きがあります。重炭酸塩は唾液の最も重要な緩衝系であり、緩衝作用は再石灰化作用を発揮します。
⑤再石灰化作用
重炭酸イオン(HCO₃⁻)によるpHの緩衝作用は、細菌が産生する酸を中和して歯を脱灰から防ぐ作用があります。この緩衝作用は唾液に含まれる炭酸脱水酵素によって促進されます。炭酸脱水酵素は獲得被膜に貯蓄しています。また、唾液中のカルシウムイオンとリン酸イオンは歯のエナメル質と結合して、脱灰された表面を修復しています。
⑥洗浄作用
唾液は歯や粘膜に付着した食物残渣を洗浄する働きがあります。
大唾液腺導管の開口部付近(上顎臼歯の頬側面、下顎切歯の舌側面)で唾液の流れが多いため、虫歯になりにくいです。
⑦抗菌作用
代表的な酵素なリゾチームです。これは細菌の細胞壁のムコ多糖体を加水分解し、細菌を溶解する働きがあります。ペルオキシダーゼはチオシアン酸(SCN⁻)と反応してヒポチオシアン酸を生成する。これは細菌の増殖を抑える働きがあります。ラクトフェリンは腸管内でペプシンの作用を受け、細菌を破壊するペプチドを遊離します。そのほか、ヒスタチン、分泌型免疫抗体(sIgA)があります。特にヒスタチンにはカンジダ類の増殖を抑える働きがあります。
⑧その他
- ・唾液は味物質を溶解して、味物質が味蕾の味受容体に届きやすくしています。(溶解作用)
- ・神経成長因子や上皮成長因子は口腔粘膜の修復に役立つといわれています。
- ・排泄作用:血液成分が排泄されます。(コルチゾール)
- ・胃液分泌:胃液の分泌を促します。
- ・血液凝固:止血する。(トロンボプラスチン)
- ・抗がん作用:がんを予防します。(ペルオキシダーゼ) 等
○口腔乾燥症(ドライマウス)
ドライマウスはさまざまな原因で唾液の分泌量が低下し、口腔内が乾燥する病気です。糖尿病や高血圧、腎不全などの病気を介して起こることもあれば、ストレスや筋肉の低下、薬剤の副作用でドライマウスになり、唾液が出ないことにストレスを感じて、さらに強いドライマウスになる可能性があります。
かむことは唾液の分泌を促し、唾液を分泌する唾液腺は筋肉によって裏打ちされています。しかし、その筋肉が衰え、唾液の分泌量が低下することでドライマウスになってしまいます。
長期化すると唾液の抗菌作用、洗浄作用、保護作用、潤滑作用などが損なわれ、口腔粘膜の炎症、虫歯の多発、会話・嚥下障害、義歯の不安定などを引き起こします。また、虫歯や歯周病だけでなく、誤嚥性肺炎などの全身疾患になる可能性があります。ドライマウスの症状は、膠原病(こうげんびょう)の1つである難病のシェーグレン症候群でもあらわれます。
口の中が乾くと、唾液の持っている自浄作用が失われ、通常よりも感染症になりやすくなります。
特に高齢者は、そのまま放置すると食べ物を飲み込む能力が低下する摂食・嚥下障害から重篤な病気になる可能性があります。
○唾液緩衝能
唾液緩衝能とは、口腔内のpHに変化が起きたとき、唾液が正常な範囲に口腔内を保とうとするはたらきのことです。安静時の口腔内のpHは中性を保っています。しかし、飲食物の摂取や口腔内にいる酸産生性をもつ細菌が酸を産生することで、口腔内が中性から酸性に変化します。pHが5.5以下になると、歯が溶けだしてしまいます(歯の脱灰)。これに対して、唾液は酸性から中性に中和し、虫歯になるリスクを防いでくれます。唾液緩衝能が高いと、短時間で口腔内のpHを中性に戻すことができるため、虫歯になりにくくなります。
また、ダラダラ食いやダラダラ飲みをしてしまうと唾液緩衝能が低下し、長時間口腔内は酸性へと傾き、唾液がたくさん出ても中性に戻す働きが追いつかず、酸性に傾いた状態が続くことで虫歯になりやすくなるので注意しましょう。
特にマウスピース矯正の方は、マウスピース着用時の飲み物は水を飲むようにしてください。砂糖の入っているジュースや炭酸飲料、砂糖の入っていない炭酸水などは虫歯のリスクを高めてしまうため、マウスピース着用時は水を飲むようにしましょう。