コラム

2024.08.19

唾液と疾病

口を触っている女性

○唾液と虫歯

唾液は虫歯(う蝕)の発生の重要な因子である歯、プラーク(歯垢)、微生物に大きな影響を及ぼしています。歯に対しては、獲得被膜(ぺリクル)を形成する(保護作用)とともに、食物残渣や細菌の産生を洗い流しています(洗浄作用)。プラーク(歯垢)内には多種類の微生物が繁殖しています。微生物が産生する酸は歯を脱灰し、虫歯を引き起こします。唾液の重炭酸塩は炭酸脱水酵素の作用を受け、酸を中和して歯の脱灰を抑えています。また、唾液中のカルシウムイオンとリン酸イオンは歯の表面を修復しています(緩衝作用と再石灰化作用)。微生物に対して、唾液は抗菌作用を発揮する酵素やペプチドなどを含んでいます。

○唾液と粘膜疾患・歯周疾患

唾液分泌が低下すると、潤滑作用・抗菌作用・保護作用が低下します。このため、口腔粘膜は傷つきやすくなります。また、微生物が増殖したり、微生物の種類(細菌叢)が変化します。その結果、粘膜の炎症や痛みが生じます。味覚感受性も低下します。これらの変化は、咀嚼・嚥下障害、会話困難を助長することになります。床義歯の装着者では、義歯の不安定や床部分の粘膜の潰瘍が発生します。唾液中には、カルシウムイオンとリン酸イオンが豊富に存在する(過飽和の状態)。唾液のpHが上昇すると過飽和状態が一層高まります。このため、カルシウムの分泌が多い人や唾液のpHが高い状態では、プラークにカルシウムとリンが沈着して歯石を形成します。歯石は歯肉縁下にも形成され、歯周疾患に罹りやすくなります。

○唾液分泌と全身性疾患

全身疾患を有した患者で、唾液欠乏症を訴える場合があります。この全身疾患には、シェーグレン症候群・糖尿病・慢性腎不全・貧血・高血圧症などがあります。

シェーグレン症候群は、唾液腺や涙腺が障害を受ける自己免疫疾患です。

耳下腺や顎下腺の炎症により腺が萎縮するため、強い口腔乾燥や咀嚼、嚥下さらに会話や味覚などの障害が起きる病気です。原因は不明で根本的治療はありません。口腔乾燥に対して、塩酸セビメリンや塩酸ピロカルピンを投与して唾液分泌を増やします。

糖尿病は尿量が増加し、体内の水分を失うこと(脱水状態)で唾液欠乏症になります。また、免疫力が低下するので歯周病になりやすく、高血糖の状態が続くと白血球の機能が低下し、歯周病菌が増殖し、炎症が進み、組織が壊れやすくなることで治りにくいことも知られています。感染に対する抵抗力も弱くなるため、歯周病から重度の感染症を引き起こす危険性もあります。

慢性腎不全は、腎臓の機能低下が慢性的に続く状態で、歯周病との関連については完全には明らかになっていませんが、免疫機能の低下やカルシウム吸収・骨代謝の異常が原因ではないかともいわれています。また、歯周病が進行すると口の中の細菌や細菌が作り出す毒素、歯周病の病巣で産生されたサイトカイン(炎症症状を引き起こす原因因子)が全身の血流に侵入し、血管の内表面を障害することで腎臓の機能にも悪影響を与えるのではないかといわれています。特に透析治療を受けている方の口の中の特徴に「口の乾燥」があります。「体の水分量の減少」「飲んでいる薬の影響」「唾液の分泌機能の低下」「透析導入の原因となった糖尿病の影響」などが原因と考えられています。これらの原因などから歯周病のリスク、虫歯のリスクにもつながってきます。

高血圧症では、長期的に服用する治療薬の副作用が原因と考えられています。特に降圧薬として用いられるカルシウム拮抗薬、利尿薬は唾液分泌を低下させます。

カルシウム拮抗薬は、細胞内のカルシウムイオンを減少させるため、唾液腺においてもCa²⁺依存性のCl⁻チャンネルが開口せず、水の移動が少なくなり唾液分泌が減少します。

その他に貧血でも、唾液腺に流れる血液量が不足するために唾液欠乏症になると考えられています。

  • 副作用として唾液分泌を抑える薬

薬の一部には唾液分泌を抑制するものがあります。

・睡眠薬   ・潰瘍治療薬   ・抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬)

・抗うつ薬   ・高血圧治療薬  ・抗てんかん薬

・抗コリン薬  ・パーキンソン病治療薬   等

○その他

・唾石症(だせきしょう)

唾液に含まれるカルシウムが沈着すると、唾石(結石の一種)になると考えられています。多くの場合は顎下腺の導管の中にでき、唾液分泌の障害となります。ほとんどは顎下腺に生じます。耳下腺にもみられますが、舌下腺ではまれです。これは顎下腺の導管が長く、粘液性の唾液を分泌するからと考えられています。唾石症になると、食事中に唾液腺が腫れて、痛みを起こします。食後しばらくするともとに戻るという症状が典型的です。ものを食べようとしたり、あるいは食べている最中に唾液腺のある顎の下(顎下部)が腫れて激しい痛み(唾仙痛だせんつう)が起こり、しばらくすると徐々に症状が消失するのが特徴です。

・化膿性唾液腺炎(かのうせいだえきせんえん)

唾液の分泌が少ないときに発生しやすい疾患で、口の中に常在する菌が唾液腺の開口部から膿が出たりします。慢性のものでは、唾液腺が硬くなり唾液の分泌が低下したりします。

・ウイルス性唾液腺炎

代表的なものとして流行性耳下腺炎、俗にいう「おたふくかぜ」があげられます。ムンプスウイルスの感染によって生じ、一度かかると免疫がついて再感染はしません。まれに顎下腺におこることもあります。

○唾液の分泌を促進させる方法

唾液腺の場所

・唾液腺マッサージ

口腔内が乾燥すると虫歯、歯周疾患などが悪化し、口腔内の細菌が増殖することで誤嚥性肺炎の原因にもなってしまいます。唾液腺マッサージを行うことによって、唾液の分泌を促し、細菌の増殖を抑制し、歯の再石灰化を起こしやすくなり、虫歯や歯周疾患、誤嚥性肺炎などの予防をすることができます。また、口の周りの筋肉を動かすことによって、舌が動くようになり、唾液の分泌が促進され、口腔機能の維持・回復に効果があります。口腔内から頬筋にかけて口腔周囲のマッサージによるリラクゼーション効果や唾液腺マッサージによる安静時唾液と刺激時唾液の分泌量を増加させることができます。ストレスや緊張で口の渇きや粘つきを感じたときにも効果的です。大唾液腺を直接刺激する唾液腺マッサージは、唾液分泌を促進し、唾液の自浄作用を高めて、口腔乾燥や口腔粘膜の炎症の予防のケアとしてとても効果的です。

頬を抑えている人

耳下腺マッサージ

指全体で耳の前、上の奥歯あたりを後ろから前に円を描くようにマッサージをしましょう。

顎を抑えている人

舌下腺マッサージ

両手の親指をそろえて、顎の下からグッと押さえましょう。

顎を抑えている人

顎下腺マッサージ

親指を顎の骨の内側の柔らかい部分に当て、耳の下から顎の下まで押しましょう。

※唾液腺マッサージを行う際は、ストレスや緊張状態であると交感神経が優位となり、唾液分泌量が

減るため、リラックスした状態で行うと副交感神経が優位となり、唾液分泌を促進されますので、

リラックスした状態で行いましょう。

食事前や口腔ケアの前に510回ほど、痛みを感じない程度の気持ち良いくらいの力で行いましょう。