コラム

2024.11.06

顎関節症について

頭蓋骨の模型 

  • 1.顎関節症とは

『顎関節症(がくかんせつしょう)』という言葉をご存知でしょうか。

歯科の二大疾患として、むし歯と歯周病が挙げられていますが、最近では顎関節症がむし歯や歯周病に続く第三の疾患として認識されるようになりました。

顎関節症の3大症状として、

・ 顎(あご)を動かすと音が鳴る
・ 顎(あご)が痛い
・ 大きなお口を開けられない

が挙げられます。このような症状を認められる場合、顎関節症と診断される可能性が高くなります。

顎関節症という呼び方をされているため、症状や原因は顎関節にのみあると思われがちですが、肩こりやめまい・頭痛・不眠症などを伴う場合もあります。何が原因なのかハッキリと分かりづらく、どこの科を受診すればいいのか迷われる方も多くいらっしゃるのではないかと思います。基本的には、一度かかりつけの歯医者さん(一般歯科)に相談してみましょう。もし痛みの度合いが大きい場合や外科手術がからむ場合は、口腔外科での対応となります。

また、噛み合わせが悪いことから顎に症状が出たのではないかという考えで、矯正歯科を受診される方もおられます。顎関節に関する知識があり、治療を行っている矯正歯科であれば問題はありませんが、そうでない場合は、かかりつけの歯医者さんや一般歯科で相談してみましょう。

  • 2.噛み合わせが悪いと顎関節症になるのか

顎関節症になったのは噛み合わせが悪いせいなのかと、矯正歯科へご相談に来られる患者さまがおられます。また、顎関節症を治すために矯正治療を希望してご相談に来られる方もおられます。結論からいうと、治るかどうかは分からないです。治る場合もあれば、治らない場合もあります。噛み合わせが悪い場合でも、顎関節症でない方はたくさんおられます。また、歯並びも噛み合わせも良い場合でも、顎関節症になっている方はおられます。なので、噛み合わせが悪いと顎関節症になるというイコール(=)の関係は成り立たないといえるでしょう。

顎関節症は、特に若い女性の方に起こりやすいとされていますが、若い女性の方だけが歯ならびが悪いということではありません。噛み合わせで言うと、ご高齢になるにつれて〝歯周病により歯を失った〟などのように噛み合わせに問題が起こっていることが多いのではないでしょうか。ですが、顎関節症になっているのは若い女性が多いということから、噛み合わせが悪くても顎関節症になるとは限らないということが言えます。

顎を抑えている女性

  • 3.顎関節症の原因

顎関節症は、複数の原因が重なって起こる疾患だと考えられています。

いくつかの原因が重なって、それぞれが持つ顎関節の耐久力を超えた場合、顎関節症を発症すると言われています。顎関節の耐久力には個人差のばらつきかあります。

顎関節症の原因として挙げられるのは、

・ 不正咬合(ふせいこうごう)

噛み合わせと顎関節症の関係性には様々な話がありますが、噛み合わせにより、偏咀嚼(=食べる時に同じ側ばかりで噛むこと)やブラキシズムを誘発する可能性があるとも言えるでしょう。もともとの歯ならびの噛み合わせが悪い場合だけでなく、むし歯の治療や歯列矯正治療でも起こる可能性があるので注意しましょう。

・ ブラキシズム(歯ぎしり・食いしばり等)

ブラキシズムとは、歯ぎしりや食いしばり・歯をカチカチと噛んで音を立てることをいいます。これらの行為は、筋肉が異常緊張を伴うため、顎関節や頭頚部周囲の筋肉に過度な負担を与えます。時には、健康的な歯が折れてしまったり、ひび割れてしまうこともあります。ブラキシズムといわれる無意識のうちにしている行為は、ストレスが大きく関係していると言われています。

・ 生活習慣

生活習慣とは、顎関節や頭頚部周囲の筋肉に負担をかけている癖のことを指します。例えば、指を吸う・爪を噛む・唇を噛む・鉛筆などの物を噛む・起きている時も口がよく開いている・頬杖・うつぶせ寝などが挙げられます。

・ ストレス

仕事や家庭などでのストレスや精神的な緊張は、筋肉を緊張状態にさせるのでブラキシズムの誘発因子となります。

・ 外傷

外傷とは、〝歯医者さんでの長い治療時間お口を大きく開けている状態が続いた〟 〝顎や頭頚部を強く打って怪我をした〟などのことを指します。

が挙げられます。

  • 4.顎関節症に関連する不正咬合の種類

不正咬合には様々な種類のものがあります。その中でも顎関節症と強い関連性があるとされているものが4種類あります。

①骨格性開咬(こっかくせいかいこう)

開咬とは、お口を閉じたときに奥歯は接触している状態で前歯は全く噛み合わない状態のことをいいます。開咬は、歯と歯が噛み合う部分が少ないです。そのため、咬合力(=噛んだ時に生じる力)を全ての歯に分散させることが難しくなります。全ての歯に分散が出来ない分、噛み合っている奥歯や顎関節に大きな負担がかかってしまいます。さらに開咬の度合いが大きい程、顎関節にかかる負担が大きくなることも証明されています。

②片側性交叉咬合(へんそくせいこうさこうごう)

偏咀嚼(=食べる時に同じ側でばかり噛むこと)や頬杖をつくなどのような悪い癖がある場合、下顎が側方の方へずれていきます。そうなると、段々と歯も移動し始め、噛み合わせにズレが生じてしまうので左右の高さが変わってくることがあります。また、顔を正面から見たときに歪んでいるように見えることがあります。このような場合、噛んだ時の力が左右で異なるためアンバランスになってしまいます。また、顎関節にかかる力も左右均等ではありません。この状態が続くと、顎関節の位置がずれやすくなってしまうので、顎関節症が起こるリスクが高くなります。

③下顎(かがく)が著しく後退した上顎前突(じょうがくぜんとつ)

噛んだ状態のときに、上の前歯の先端から下の前歯の表面までの水平的な距離をオーバージェットと言います。このオーバージェットは、2~3㎜が理想的な数値とされています。オーバージェットが6~7㎜以上の上顎前突(じょうがくぜんとつ)は顎関節症の可能性が高くなると言われています。

上顎前突は大きく分けて2種類のタイプがあり、上の前歯のみが傾斜して突出している状態の歯性上顎前突と上顎骨が骨格的に突出している骨格性上顎前突に分類されます。また、下顎が後退している上顎前突も含みます。下顎が後退している場合、上顎前突も顎関節症が起こってしまう可能性が高くなります。

④顆頭後退位(かとうこうたいい)と最大咬頭嵌合位(さいだいこうとうかんごうい)との間に4㎜以上の差がある咬合

歯と歯を接触させずに顆頭を最も後退させた位置(顆頭後退位)と歯が最も噛み合っている位置(最大咬頭嵌合位)の差を計測したとき、その差が4㎜以上ある場合は顎関節症のリスクが高くなる可能性があります。