コラム

2024.11.27

喫煙と歯周病

喫煙をしている人

たばこの煙には約4000種類の化学物質が含まれており、その中のニコチンや一酸化炭素などの有害物質が約200種類あり、発がん性物質が約70種類といわれています。

喫煙が習慣化すると、歯周病の発症しやすくなり、歯周病の進行を重症化させてしまいます。

また、口腔がんや歯周病(歯槽膿漏)などの口腔疾患だけでなく、呼吸器疾患や循環器疾患、消化器疾患などの全身疾患にも影響を及ぼします。

○ たばこの三害

たばこの主な成分は、ニコチン・タール・一酸化炭素です。

・ ニコチン

アルカロイドの一種で、神経毒性の強い猛毒であり、化学物質としては毒物に指定されています。

ニコチンは血管収縮作用があり、その影響で歯周組織の血流が悪化し、十分な栄養や酸素を供給することが困難になります。また、唾液の分泌量が減少し、細菌が増殖しやすくなり虫歯になりやすくなります。そして、ニコチンには依存性があります。たばこを吸い続けると、ニコチンを吸収しないとイライラする、落ち着かない、不安になるなどの症状が出やすくなります。(ニコチン依存症)

・ タール(たばこのヤニ)

たばこの煙のうち、一酸化炭素やガス状成分をのぞいた粒子状の成分のことです。タールは発がん性物質で、独特な臭いをもっています。

・ 一酸化炭素(CO)

一酸化炭素は酸素に比べて200倍以上もヘモグロビンに結び付きやすい性質をもっており、一酸化炭素とヘモグロビンが結合することで、血液の酸素運搬能力が低下し、末端組織が慢性的な酸欠状態に陥ります。これが一酸化炭素中毒といいます。一酸化炭素はたばこの煙の中に1~3%ほど含まれています。

○ たばこから口腔への影響

血管収縮作用

・ 血管収縮作用

口の中にたばこの成分や煙が入ると、粘膜や歯肉から吸収されます。吸収されたたばこの有害物質は、微小血管が収縮し、歯肉の血流量を減少させ、血行が悪くなることで、歯肉の炎症が起こっていても出血や腫れに気づきにくくなります。そのため、歯周病の発見が遅くなってしまいます。

歯槽骨吸収、歯の喪失

・ 歯槽骨吸収、歯の喪失

血液循環が悪化して歯肉に十分な栄養や酸素がいきわたらなくなると、歯周ポケットの中で歯周病の原因となる細菌が繁殖しやすくなります。その細菌が産生する毒素が歯周ポケットを深くさせ、歯を支える骨(歯槽骨)を溶かします。歯を支える骨が溶けると、歯肉が下がり、歯がグラグラと動揺し、やがて歯を失ってしまいます。

・ 創傷治癒能力の低下

喫煙者は非喫煙者と比べて、歯周病の治療は治りにくく、歯周外科治療後などの創傷治癒能力が劣ることも報告されています。ニコチンは体を守る免疫機能を抑制するため、歯周病だけでなくさまざまな病気に対する抵抗力が落ちることで、アレルギーが出やすくなります。傷を治すための細胞(線維芽細胞)の働きまでも抑えてしまいます。そのため、手術後の治りが遅くなります。そして、歯周組織の修復機能も低下するため、治療をしても治りにくいです。

・ 味覚障害

味を感じる味細胞は常に生まれ変わりが必要であり、その際使われているが亜鉛です。たばこを吸うと体内に活性酸素が作られ、それを体外に出すのに多く亜鉛が使われます。そのため、亜鉛が欠乏し、味覚障害が起こります。たばこを吸うと味蕾がニコチンやタールで刺激され、麻痺して「苦み」が先に鈍くなり、「苦み」「酸味」「塩味」の順に影響を受け、濃い味つけを好みやすくなります。味覚予防の方法としては、第一に禁煙することであり、食事等では亜鉛を多く含む食品を摂取しましょう。

(例:レバー、チーズ、海藻、うなぎ、ナッツ類等)

また、たばこに含まれるタールは舌を乾燥させ、舌の上に残りやすいため、舌が黒ずんでくることで味覚障害が起こりやすくなります。

口臭

・ 口臭

たばこの独特な臭いは、タールによるものです。タールは粘性が高く、時間が経っても口の中にとどまります。また、たばこを吸うと唾液分泌量が低下し、口の中が乾燥するため、口臭が悪化します。また、たばこは口臭の原因となる歯周病を重症化させるため、より口臭が悪化します。

虫歯イメージ

・ 虫歯

喫煙をするとニコチンの血流阻害作用により、唾液の分泌が悪くなり、唾液緩衝能力が低下することで、プラーク(歯垢)が沈着しやすくなり、虫歯菌の活性が増大して歯質の脱灰が増加することにより、虫歯になりやすくなります。また、叢生で磨きにくい場所は特にプラーク(歯垢)が溜まりやすいため、虫歯ができやすくなります。そして、喫煙によって歯肉が下がることから歯頚部(歯と歯肉の境目の部分)に虫歯が起こりやすくなります。

インプラントイメージ

・ インプラント

喫煙の血流阻害作用や血管収縮作用などが原因で、歯肉や骨に十分な栄養や酸素がいきわたらなくなります。その結果、歯周組織が弱まり、インプラントと骨が結合しにくくなることで、インプラントの維持が不安定になります。

・ 口腔がん

たばこに含まれる発がん性物質や喫煙によって生じる活性酸素は、がんを抑制する遺伝子を傷つけるため、がんを引き起こすことがあります。喫煙によって分泌されるアドレナリンの影響で抗体の働きが弱体化することにより、がんの成長を助長してしまいます。また喫煙すると、がんの前身である白板症になる可能性が高くなり、口腔がんのリスクがさらに高くなります。白板症が悪性になる確率は白板症全体の5%ほどですが、喫煙を続けるとがん化するリスクが増えてしまいます。

白板症

白板症:口腔粘膜、とくに頬粘膜や舌、ときには歯肉にみられる白い病変で、こすっても剥離しないものをいいます。白板症は比較的頻度も高く、とくに舌にできたものは悪性化する可能性が高いため、前がん病変(口腔潜在的悪性疾患ともいいます。)の代表的なものとされています。びらん(ただれ)を伴うこともあり、ものが当たると痛かったり(接触痛)、食べ物がしみたりすることがあります。原因は、喫煙やアルコール、刺激性の強い食べ物(辛い物や熱いものなど)を過剰に摂取することなどによる化学的刺激、悪い歯並びや口腔粘膜を継続的に噛んだり、傷つけたり、義歯などによる慢性の機械的刺激、さらに加齢や体質なども関係するといわれています。

入れ歯

・ 義歯(入れ歯)

喫煙の影響で歯肉が弱まり、義歯をつくった時と比較すると口腔内の状態が変化するため、義歯が入らなくなります。また、喫煙により唾液の分泌量が減少し、口腔内が乾燥することで義歯がフィットしにくくなります。さらに喫煙を続けると、白板症になる可能性があります。

着色した歯

・ 着色

ニコチンやタールが歯に着色(茶褐色・黒色)し、さらに汚れが沈着することで歯の裏側は特に黒ずみます。タールが歯に沈着することで、歯の修復物のレジンの辺縁などに着色しやすく、見た目も悪くなってしまいます。たばこは喫煙者(能動喫煙)だけでなく非喫煙者(受動喫煙)にも影響を及ぼします。歯肉が黒ずんでくること(歯肉メラニン色素沈着)は、たばこ関連の歯周炎の特徴であり、非喫煙者の約5.5倍もその子どもの歯肉には色素沈着がみられます。

歯肉のメラニン色素沈着

◦ 歯肉のメラニン色素沈着

歯肉のメラニン色素沈着が認められた場合、必ずしも受動喫煙が原因であるとは限りません。

歯肉メラニン色素沈着に影響する可能性がある因子はさまざまあります。

口呼吸をしている人

  1. 口呼吸

口呼吸は歯肉粘膜を乾燥させ、粘膜の抵抗性を減少させるため歯肉炎を発症しやすくなります。

口呼吸による歯肉の乾燥がメラニンの生成を活性化させる刺激になっている可能性があります。

  1. 日焼け(紫外線)

メラニン色素の生成は紫外線に対する防御であり、メラニンの酸化反応によりメラニン色素沈着が濃くなります。日焼けをしている人の方が歯肉のメラニン色素沈着も濃く、範囲が広い傾向があります。

また、直接的に日光が歯肉に当たって濃くなるのではなく、目や全身へ当たることによってメラニン色素の生成が活性化されている可能性があります。

  1. 髪の毛の色

頭髪の色が黒に近い方は頭髪が明るい方に比べて、歯肉のメラニン色素沈着も濃く広い範囲に

みられます。

  1. ビタミンC不足

メラニン色素の生成はアスコルビン酸により抑制されます。そのため、ビタミンCを不足している方は

メラニン色素の生成を促進している可能性があります。

これらの要因などでお身内に喫煙者がいない場合でも、歯肉のメラニン色素沈着が濃くなる可能性があります。また、喫煙者はメラニン色素沈着が濃くなるのはもちろん、受動喫煙者は喫煙者と同居年数が長いほどメラニン色素沈着は濃く広い範囲にみられます。そして、同居している喫煙者の喫煙場所によっても特に子どもは影響の差があります。年齢が高い方がメラニン色素は濃くなりやすいです。

禁煙イメージ

○ 禁煙の効果

喫煙は歯周病の予防や治療を妨げる原因であり、喫煙者の歯周治療には禁煙が必要です。禁煙をすることによって、歯周組織は数週間で本来備わっていた免疫応答が回復するようになり、少しずつ歯肉の状態や歯肉の色も健康な色に回復していきます。そして、免疫や細胞のはたらきが高まるため、歯周病のリスクが低下し治療効果が上がります。また、口の中がさわやかになり口臭がなくなることで味覚も回復し、おいしい食事ができるようになります。口腔内だけでなく色々な病気のリスクが減少し、全身の健康にも大きく関わり、生活の質(QOL)の向上をさせるためにも禁煙はとても重要なことです。歯の喪失のリスクに関しては非喫煙者に比較して、喫煙者は高いリスクをもっていますが、禁煙によりそのリスクが徐々に低下していきます。さらに禁煙をすることで、同居している家族や職場、友人など、道ですれ違う不特定多数の人々の受動喫煙をなくすことができます。