喫煙による影響は、口腔内への影響だけでなく全身への影響にも大きく関与しています。
○たばこはがんのリスクを高める
たばこの煙には約200種類以上の有害物質が含まれており、そのうち約60種類に発がん性があるとされています。
たばこの煙の通り道の咽頭や肺だけでなく、有害物質が吸収される胃や腸など、これらの有害物質は全身の影響を与えます。有害物質が血液や尿に溶けて通る肝臓や腎臓、尿路などでもがんが発生するリスクが高まります。
たばこと最も関連が深いとされているがんは、肺がんや喉頭がん、口腔がんなど、直接たばこの煙に触れる部位です。しかし、たばこの有害物質は血液にのって全身に運ばれるため、胃がんや食道がん、肝臓がん、膵臓がん、膀胱がん、子宮頸がんなど、たばこの煙が直接触れない部位のがんでも発症するリスクは高まってしまいます。
がんは、3大死因のひとつで最も死亡率が高い病気で、長年日本人の死因第1位を占めています。
厚生労働省の「人口動態統計(確定数)」(2023年)によると、死因の1位は悪性新生物(がん)24.3%、2位は心疾患14.7%、3位は老衰12.1%、4位は脳血管疾患6.6%、5位は肺炎4.8%でした。
がんの原因の多くは、生活習慣が大きく関連されており食生活や飲酒、運動などの生活習慣がある中で、喫煙が最も危険因子とされています。喫煙は肺がんだけでなく、多くのがんのリスクを高めてしまうほかに、受動喫煙の方も肺がんなどの健康被害をもたらしてしまいます。
喫煙をしている男性は、非喫煙者に比べて肺がんによる死亡率が約4.5倍高くなっているほか、それ以外の多くのがんについても、喫煙による危険性が増大することが報告されています。
○循環器疾患
心筋梗塞や脳梗塞などの発症には、食事や運動など様々な生活習慣が関わっていますが、その中でも非常に重要な危険因子とされているのがたばこです。たばこには、血液中の悪玉コレステロールであるLDL-コレステロールを増やし、善玉コレステロールであるHDL-コレステロールを減らす作用や、血圧を上昇させる作用などがあります。
これらの相互作用により動脈硬化が進行し、狭心症や心筋梗塞などの心疾患、脳出血や脳梗塞などの脳血管疾患などのリスクが高まるとされています。喫煙は、動脈硬化と関連した病気の原因となることが報告されています。
さらに、喫煙によって糖尿病が発症しやすくなるだけでなく、すでに糖尿病にかかっている人が喫煙し続けると、脳梗塞や心筋梗塞、糖尿病性腎症等の合併症リスクが高まることが分かっています。
喫煙者は、非喫煙者に比べて虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症等)の死亡の危険性が1.7倍高くなるという報告があります。また、脳卒中についても喫煙者は非喫煙者に比べて危険性が1.7倍高くなるという報告があります。
○呼吸器疾患
喫煙により空気の通り道である起動や肺自体へ影響を及ぼすことが知られています。
このため、喫煙は慢性気管支炎や呼吸困難、運動時の息切れなどの特徴的な肺気腫や喘息等の呼吸器疾患の原因と大きく関連しています。さらに、歯周病の原因とも関連があるという報告があります。
喫煙は、さまざまな呼吸器症状を引き起こし、喘息のリスクを高めます。
また、COPDの発生と、それによる死亡を引き起こす可能性があります。それだけでなく、肺機能の発達障害や呼吸機能の早期の低下にもつながります。
さらに、新型コロナウイルスに感染したとき、喫煙者は非喫煙者と比較して、重症となる可能性が高いことが報告されています。たばこの煙には多数の有害化学物質が含まれており、喫煙は全身の諸器官に悪影響をもたらします。
喫煙は呼吸器系の形態的・機能的変化をきたし、様々な症状や疾患を引き起こします。喫煙者は非喫煙者に比べて、咳・痰・喘鳴(ぜんめい:気道が狭くなっているため、呼吸時にゼーゼーという異常音が連続的に発生される状態)・息切れなどの症状が多くみられます。また、喫煙は気管支喘息のリスク因子とされています。特に、受動喫煙と小児の喘息には関連性があることが認められています。
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、肺気腫や慢性気管支炎などを併発する疾患で、別名「たばこ病」といわれているくらいたばこの煙が原因で起こることが多いです。
呼吸器の病気は感染によるものが多いですが、慢性閉塞性肺疾患は生活習慣と深い関わりのある病気です。たばこの煙や大気汚染、粉塵などが原因であり、慢性閉塞性肺疾患患者の90%以上が喫煙者といわれており、喫煙が最大の危険因子とされています。
喫煙者の発症リスクは、喫煙を始めた年齢、喫煙本数、喫煙年数など喫煙量に関係し、喫煙量が多い人ほど発症リスクが高くなります。また、喫煙者だけでなく受動喫煙も慢性閉塞性肺疾患の危険因子となっています。
慢性閉塞性肺疾患の発症リスクは、喫煙年数などに比例して高くなるので、早く禁煙すればするほど予防効果は大きくなります。すでに慢性閉塞性肺疾患を発症している方は、直ちに禁煙することで治療効果が上がり、進行を止めることができます。受動喫煙による被害が出ないためにも、直ちに喫煙者は禁煙することをおすすめします。
・新型コロナウイルス
新型コロナウイルスは、主に肺を攻撃する感染症です。
喫煙は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスク要因となります。喫煙者あるいは過去に喫煙していた人は、非喫煙者に比べて新型コロナウイルスに感染した場合の重症化リスクや死亡リスクが高まることがわかってきました。
WHOでは、高齢者や心血管疾患、がん、呼吸器疾患、糖尿病など基礎疾患(持病)のある人、肥満者などとともに、喫煙も新型コロナウイルス感染症の重症化要因であると述べています。禁煙をすることは、新型コロナウイルスの対策のひとつにもつながります。
○骨粗鬆症
たばこは、胃腸の働きを抑制し、食欲をなくして、カルシウムの吸収を妨げます。
女性ホルモン(エストロゲン)が骨の新陳代謝に関わっていますが、喫煙によって女性ホルモンの分泌を減少させてしまい、骨粗鬆症になる可能性が高まります。喫煙は、骨密度の低下を進めるため、骨粗鬆症や骨折にも大きく関係しています。
○脳や精神面などにも影響する
喫煙を続けている人は、禁煙をした人に比べて不安が強く、うつ病になるリスクが高くなり、またストレスも高いことが報告されています。研究では、中年から高年までの喫煙を続けている人は、喫煙しない人に比べて認知症になるリスクが高くなると報告されています。
○ニコチン依存症
喫煙がやめられない原因に「依存症」があります。依存性とは、あるものをやめようと思っても強い渇望があり、やめられなくなった状態をいいます。
たばこの成分であるニコチンによるニコチン依存は、国際疾病分類(ICD-10)や精神医学分野(DSM-IV)において独立した疾患として扱われており、たばこに依存性があることは確立した科学的知見となっています。
たばこを吸うと、たばこの3害に含まれるニコチンによって脳内でドーパミンという物質が大量に放出され、このドーパミンが快感を生じます。しかし30分もすると、逆にイライラしたり、落ち着かないなどの離脱症状(禁断症状)が現れてきます。
この離脱症状を解消するために、またたばこを吸うというその繰り返しが「ニコチン依存症」です。一度ニコチン依存症になってしまうと、たばこをやめるのが困難となり、ニコチン依存症から抜け出すのは危険薬物でもあるヘロインやコカインなどと同じくらい難しいといわれています。
・ニコチン
アルカロイドの一種で、神経毒性の強い猛毒です。化学物質としては猛毒に指定されています。
○妊娠中の喫煙による胎児・子どもへの影響
喫煙は母体への影響だけでなく、胎児の発育に対する悪影響が懸念されます。喫煙している妊婦さんから生まれた赤ちゃんは、喫煙していない妊婦さんから生まれた赤ちゃんに比べて低出生体重児となるリスクが約2倍高くなっています。
さらに、喫煙している妊婦さんは喫煙していない妊婦さんに比べて、早産・自然流産、周産期死亡(妊娠28週以降の死産と、生後1週間以内の早期新生児死亡)の危険性が高くなっています。
妊娠中の喫煙が胎児に及ぼす危険度は、厚生労働省の研究では、低出生体重児2.4倍、早産3.3倍という報告があります。
そのほかに、先天性口唇・口蓋裂は妊婦さんが喫煙をしていた場合、胎児は口唇・口蓋裂になりやすくなります。非喫煙者と比べた場合、約1.2倍口唇・口蓋裂になる確率が高くなります。
乳幼児突然死症候群(SIDS)は、元気な乳幼児が主に睡眠時に突然亡くなることであり、たばこやうつぶせ寝などが原因とされています。また、子宮外妊娠や妊娠中の異常(前置胎盤、胎盤早期剥離等)などの影響もあります。
受動喫煙の妊婦さんも胎児や子どもへの影響を及ぼすリスクは高いです。気管支喘息などの呼吸器疾患や中耳疾患、小児がん、注意欠陥多動性障害(ADHD:精神年齢に比べて、不適当な注意力障害、衝動性、多動性を示す行動障害)、歯周病、う蝕(虫歯)、歯肉のメラニン色素沈着などのリスクが高まります。
○まとめ
これらのことから、喫煙をすることにより虫歯や歯周病などの口腔疾患だけでなく、がんや循環器疾患、呼吸器疾患、消化器疾患などの全身疾患にも大きく影響を及ぼしてしまいます。
また、喫煙を始めた年齢や喫煙本数、喫煙年数など喫煙量によって病気の発症リスクが高くなります。直ちに禁煙をすることで、予防することができ治療効果が上がります。そして、受動喫煙による被害が出ないためにも喫煙者は禁煙をしましょう。
しかし、喫煙者はニコチン依存によってなかなか禁煙ができない方は、自分1人で抱え込まず、医療機関などに相談してみましょう。